今回は専門的な内容の記事になります。マルチンゲール中心極限定理は古典的な中心極限定理の拡張で、確率変数列の分布極限を求める際にしばしば役に立つ定理ですが、日本語の証明が載っているサイトが見当たらなかったので、ここでご紹介したいと思います。確率論、離散マルチンゲールの知識を前提とします。
補題1
最初の補題は、「はさみうちの原理」の確率収束バージョンです。証明は容易です。
補題1
Xnを実数値確率変数,cを実数とし,任意のϵ>0に対し,
Yn≤Xn≤Zn, YnP→c−ϵ, ZnP→c+ϵ
なる確率変数Yn,Znが存在したとすれば,XnP→cとなる.
*特に
Yn≤Xn≤Zn, YnP→c, ZnP→c
となる確率変数Yn,Znが存在すれば,XnP→cとなる.
証明
任意のδ>0に対し,ϵ=δ2として上のYn,Znをとれば,
P(|Xn−c|>δ)=P(Xn−c>δ)+P(Xn−c<−δ)≤P(Zn−c>δ)+P(Yn−c<−δ)≤P(Zn−(c+δ/2)>δ/2)+P(Yn−(c−δ/2)<−δ/2)→0 (n→∞)
だから示すべきことが言える.□
補題2
次の補題は、有名公式limn→∞(1+1n)n=eの一般化です。
補題2
複素数値確率変数列{anj}Nnj=1 (n=1,2,⋯)に対し,
(i) ある定数αが存在して,Nn∑j=1anjP→α (n→∞)
(ii) max1≤j≤Nn|anj|P→0 (n→∞)
(iii) ある定数Cが存在して,Nn∑j=1|anj|<C
が成り立つと仮定すると,
Nn∏j=1(1+anj)→eα (n→∞, in L1)
となる.
証明
|z|<12に対し,z=0で0となるlog(1+z)の分枝をとれば,
log(1+z)=z−z22+z33−⋯
よって,
|log(1+z)−z|≤∞∑n=2|z|nn=|z2|∞∑n=2|z|n−2n≤|z2|∞∑n=012n=2|z|2
となるので,
1{maxj|anj|≤12}|logNn∏j=1(1+anj)−Nn∑j=1anj|=1{maxj|anj|≤12}|Nn∑j=1(log(1+anj)−anj)|≤2Nn∑j=1|anj|2≤2max1≤j≤Nn|anj|Nn∑j=1|anj|≤2Cmax1≤j≤Nn|anj|P→0 (n→∞)
いま条件(ii)より1{maxj|anj|≤12}P→1であるから,補題1より,
logNn∏j=1(1+anj)−Nn∑j=1anjP→0
これと条件(i)によりlogNn∏j=1(1+anj)P→αとなるので,
Nn∏j=1(1+anj)P→eα (n→∞)
となる.さらに条件(iii)より,
|Nn∏j=1(1+anj)|≤Nn∏j=1(1+|anj|)≤Nn∏j=1e|anj|=eNn∑j=1|anj|<eC
だから{Nn∏j=1(1+anj)}は一様可積分となり,L1収束も言える.□
マルチンゲール中心極限定理
いよいよ本題です。
マルチンゲール中心極限定理
(Ωn,Fn,Pn) (n=1,2,⋯)を確率空間とし,Fn={Fnj}Nnj=0をその上の情報増大系とする.また,Xn={Xnj}Nnj=0をFnに関する実数値マルチンゲールとし,E[(Xnj)2]<∞とする.さらに
ξn0=Xn0, ξnj=Xnj−Xnj−1 (j=1,⋯,Nn)
に対し,次の条件を仮定する.
(i) ある定数σ>0に対して,
Nn∑j=1E[(ξnj)2|Fnj−1]P→σ2 (n→∞)
(ii) (条件付きLindeberg条件)
∀ϵ>0 Nn∑j=1E[(ξnj)21{|ξnj|>ϵ}|Fnj−1]P→0 (n→∞)
この時,
XnNnd→N(0,σ2) (n→∞)
が成り立つ.
証明の方針
特性関数を利用して分布収束を示します。さらに、条件(i)から、nを大きくしたときに
Nn∑j=1E[(ξnj)2|Fnj−1]<2σ2
となる確率は1に近づくので、この不等式が成り立つ範囲で証明すればよさそうです。そこで、新たに
Xnj1{Nn∑j=1E[(ξnj)2|Fnj−1]<2σ2}
という変数を考えたくなりますが、こうするとFj-可測性が失われてしまうので、少し工夫する必要があります。
証明 簡単のためE[X|Fnj]=Ej[X]と書く.また,
ζn0=ξn0, ζnj=ξnj1{j∑k=1Ek−1[(ξnk)2]<2σ2} (j=1,⋯,Nn)Ynj=j∑k=0ζnk
とおく.XnNn=Nn∑k=0ξnkであることに注意すると,条件(i)より,δ>0に対し
P(|XnNn−YnNn|>δ)≤P(XnNn≠YnNn)≤P(Nn∑k=1Ek−1[(ξnk)2]≥2σ2)→0
よってXnNn−YnNnP→0だから,YnNnd→N(0,σ2)を示せばよい.そのために,
R(x)=eix−1−ix, wnj=Ej−1[R(tζnj)] (t∈R, j=1,⋯,Nn)
とおき,以下の順に証明を行う.
(1) Nn∑j=1Ej−1[(ζnj)2]P→σ2
(2) Nn∑j=1(wnj+t22Ej−1[(ζnj)2])P→0
(3) (1),(2)より,Nn∑j=1wnjP→−σ22t2
(4) Nn∑j=1|wnj|≤σ2t2
(5) maxj=1,⋯,Nn|wnj|P→0
(6) Unj=j∏k=1(1−wnk)とおくと,(3),(4),(5)と補題2よりUnNnL1→eσ22t2
(7) Znj=eitYnjUnjとおくと,E[ZnNn]→1
(8) (6),(7)よりE[eitYnNn]→e−σ22t2となり,証明が完了する.
[(1)の証明)]:δ>0に対し,
P(|Nn∑j=1Ej−1[(ζnj)2]−Nn∑j=1Ej−1[(ξnj)2]|>δ)≤P(Ej−1[(ζnNn)2]≠Ej−1[(ξnNn)2])≤P(Nn∑k=1Ek−1[(ξnk)2]≥2σ2)→0
よりNn∑j=1Ej−1[(ζnj)2]−Nn∑j=1Ej−1[(ξnj)2]P→0だから,条件(i)により示すべきことが言える.
[(2)の証明]:一般にx∈Rに対し,
|eix−m∑j=0(ix)jj!|=|∫x0imeium!umdu|≤∫x01m!umdu=xm+1(m+1)!
となるので,
|R(x)+12x2|≤16|x|3|R(x)+12x2|≤|R(x)|+12x2≤x2
である。よって,ϵ>0に対して,
|Nn∑j=1(wnj+t22Ej−1[(ζnj)2])|=Nn∑j=1Ej−1[|R(tζnj)+12(tζnj)2|]=Nn∑j=1{Ej−1[|R(tζnj)+12(tζnj)2|1{|ξnj|>ϵ}]+Ej−1[|R(tζnj)+12(tζnj)2|1{|ξnj|≤ϵ}]}≤Nn∑j=1{t2Ej−1[(ζnj)21{|ξnj|>ϵ}]+t36Ej−1[(ζnj)31{|ξnj|≤ϵ}]}≤t2Nn∑j=1Ej−1[(ξnj)21{|ξnj|>ϵ}]+ϵ6t3Nn∑j=1Ej−1[(ξnj)2]P→ϵσ26
最後の不等号は,(ξnj)2≥(ζnj)2を用いた.いまϵ>0は任意なので,補題1.1より示すべきことを得る.
[(4)の証明]:|R(x)|≤12x2に注意すると,
Nn∑j=1|wnj|≤Nn∑j=1E[|R(tζnj)|]≤Nn∑j=1Ej−1[|R(tζnj)|]≤t22Nn∑j=1Ej−1[(ζnj)2]≤t22Nn∑j=1Ej−1[(ξnj)21{j∑k=1Ek−1[(ξnk)2]<2σ2}]=t22Nn∑j=1Ej−1[(ξnj)2]1{j∑k=1Ek−1[(ξnk)2]<2σ2}≤t22×2σ2=σ2t2
[(5)の証明]:再び|R(x)|≤12x2により,ϵ>0に対して
|wnj|≤Ej−1[|R(tζnj)|]≤t22Ej−1[(ζnj)2]=t22{Ej−1[(ζnj)21{|ζnj|≤ϵ}]+Ej−1[(ζnj)21{|ζnj|>ϵ}]}≤t22{ϵ+Ej−1[(ζnj)21{|ζnj|>ϵ}]}≤t22{ϵ+Nn∑j=1Ej−1[(ζnj)21{|ζnj|>ϵ}]}
よって,
maxj=1,⋯,Nn|wnj|≤t22{ϵ+Nn∑j=1Ej−1[(ζnj)21{|ζnj|>ϵ}]}P→t22ϵ
でϵ>0は任意だから示すべきことを得る.
[(7)の証明]:Zn0=1とおくと,Znj=Znj−1eitζn(1+wnj)でZnj−1,wnjはFj−1-可測だから,
Ej−1[Znj]=Ej−1[Znj−1eitζn(1−wnj)]=Znj−1(1−wnj)Ej−1[eitζn]=Znj−1(1−wnj)Ej−1[R(tζnj)+1+itζnj]=Znj−1(1−wnj){wnj+1+Ej−1[itζnj]}
ここで,{Znj}jはマルチンゲールだから,Ej−1[ξnj]=0
Ej−1[ζnj]=Ej−1[ξnj1{j∑k=1Ek−1[(ξnk)2]<2σ2}]=Ej−1[ζnj]1{j∑k=1Ek−1[(ξnk)2]<2σ2}=0
ゆえに,
Ej−1[Znj]=Znj−1(1−wnj)(wnj+1)=Znj−1(1−(wnj)2)
両辺の期待値をとって,
E[Znj]=E[Znj−1]+E[Znj−1(wnj)2]
となるから,|Znj−1|=|Unj−1|≤eσ2t2より,
|E[ZnNn]−1|≤Nn∑j=1|E[Znj]−E[Znj−1]|≤Nn∑j=1E[|Znj−1||wnj|2]≤eσ2t2E[Nn∑j=1|wnj|2]
ここで,
Nn∑j=1|wnj|2≤maxj=1,⋯,Nn|wnj|Nn∑j=1|wnj|≤σ2t2maxj=1,⋯,Nn|wnj|P→0
であり,
Nn∑j=1|wnj|2≤(Nn∑j=1|wnj|)2≤σ4t4
より{Nn∑j=1|wnj|2}は一様可積分だから,E[Nn∑j=1|wnj|2]→0
ゆえに,|E[ZnNn]−1|→0 (n→∞)を得る.
[(8)の証明]:
E[eitYn]eσ22t2=E[eitYnUnNn]−E[eitYn(UnNn−eσ22t2)]
(7)より,(第1項)→1 (n→∞),また第2項は,
|E[eitYn(UnNn−eσ22t2)]|≤E[|(UnNn−eσ22t2|]→0 (n→∞)
だから,E[eitYn]eσ22t2→1(n→∞)を得る.□
[(2)の証明]の2行目から3行目の式変形でtが消えているのはなぜでしょうか。
コメントありがとうございます。ご返信が遅くなりすみません。
その部分は誤植だったので、修正させていただきました。
また、その前の不等式の部分も若干非自明な部分があったため、説明を追加しました。
よろしくお願いいたします。