これは私が学部1年生のときに書いた教育学のレポートです。
日本では近年貧富の格差がますます広がってきており、貧困の連鎖も起こっています。こうした格差は教育分野においても顕著になっています。
私は教育学で「文化資本」…(※)という概念を学び、教育の格差が少年犯罪を惹起させている、少年が非行に走ってしまう背景にはこうした格差があるからではないのか、と考えました。
格差社会や貧困という問題をどうして是正しなければならないのか。それを考察する一助になれば幸いです。
(※)文化資本
:言葉づかいや行動様式など身体化されたもの、
絵画や書物など物として客体化されたもの、
学歴や資格として制度化されたものの3つの形態をもつ。
フランスの社会学者、ピエール・ブルデューによって提唱された。
Ⅰはじめに
私は大学で法律学を専攻している。個人的に、法律学において教育と最もかかわりが深いのは刑法分野であると考えている。我が国では、犯罪者に刑を科す根拠として「相対的応報刑論」という学説をとっている。これは、応報刑論と目的刑論双方の考え方を組み合わせた理論である。応報刑論とは、刑罰を「犯罪に対する公的応報」とみなし、「あれだけのことをしたのだからこの程度の刑罰はやむを得ない」(前田 2015, p.6)という考えを導く。なお、犯罪防止などの目的を考慮すべきでないとする。対して目的刑論は、「刑罰は広い意味での犯罪防止という目的の為に科される」(前田 2015, p.6)という考え方であり、一般予防と特別予防に大別される。この特別予防が、教育という概念を採用しているのである。特別予防は、「刑罰により犯罪者自身が再び犯罪に陥ることを防ぐという考え方で、改善刑・教育刑がこれに属する」(前田 2015, p.6)。したがって、私は法律学の中の刑法という分野から教育を捉え、重大犯罪を犯す少年たちを、文献を用いつつ分析することで教育学の人間にとっての意義を論じる。
Ⅱ学校と重大犯罪を犯した少年たちとの関係性:原因①学歴主義
教育を受ける過程にある少年たちはなぜ重大な罪を犯してしまうのだろうか。少年たちは、一日のうち三分の一以上の時間を学校という社会の中で過ごしている。したがって、少年たちが犯罪を犯す原因は学校教育にあるのではないかと考え、その仮説を検証していく。なお、この章において用いるデータは、すべて『少年犯罪の背景・要因と教育改革を考える―とどいてますか、子どもの声が―』(日本弁護士連合会 2001.11.8)から引用した。
分析対象は、15~18歳の少年14人で、うち男12人女2人である。学歴・職業については、在学中が10人、うち中学5人高校5人で、有職1人無職3人高校中退1人である。今回は学校教育を非行の原因としているので、家族構成については割愛する。経済状況については、「経済的余裕のない家庭もあれば、いわゆる中流家庭もあり、経済状況は様々であった。貧困ゆえの金欲しさが犯行の直接の動機となったケースはないが、貧困ゆえに生ずる家庭内の閉塞感が非行の遠因となっていると思われるケースは散見される」(日本弁護士連合会 2001, p.6)ことから、当初私が予想した、貧困ゆえに低い水準の教育を受けざるをえなかったがために、人格の形成が不十分となりその結果善良な倫理観を持ち合わせない人間となり、犯罪を犯してしまった、という経済的事情、すなわち貧困が直接の原因となっているわけではないことは明らかである。ただし、因果関係はないまでも相関関係をも否定することはできないということも当該参考文献は示唆している。
学校成績については、在学中の成績が判明している9人の中で分類すると、上位2人中位1人下位6人である。登校状況については、問題が見られないのが5人、不登校や怠学により欠席・遅刻・早退の多かったのが7人であり、残る2人は不明である。
また、「少年非行の防止に関する国連指針(リヤドガイドライン)においても、『Ⅳ・社会化の過程』において、⋯学校の存在を極めて重要なものとして位置づけている」(日本弁護士連合会 2001, p.16)ことから、少年たちの人格形成に学校教育が寄与している部分が大きいことがわかる。『少年犯罪の背景・要因と教育改革を考える―とどいてますか、子どもの声が―』は、少年たちが重大犯罪を犯した原因が学校にあるとする旨を次のように述べている。
「ただ、わが国においては学歴によって社会的な地位(進学・就職等)が左右されてしまうという学歴主義が浸透しており、必然的に学校においても、学業成績による競争に勝ったものがより高い学歴を得、より高い社会的評価を受けるという、競争と選別の論理が貫徹しており、とかく学業成績を重視する傾向にあるのも現実である。/したがって、生徒らにとって「成績」は、大きな関心事であることは否定できない。このことが、「成績」以外に価値を認めないという歪んだ形で推し進められるとき、それが非行、さらには重大事件に至るきっかけとなることもあり、重大事件の中ではその観点から考察できる事件もあった」。
以上のことをまとめると、少年たちが重大犯罪を犯すことと学校との間には関係性を見出すことができる。少年たちが犯罪を犯す原因としては、学校が学歴主義社会であることが挙げられる。学歴主義においては、他者と競争することが求められ、常に「成績」というもの差しで選別される。データから見て分かるとおり、重大事件を起こした少年14人のうち、学業成績が判明している9人中6人が下位である。学歴は就職等にも多大な影響を及ぼすため、成績が悪いということは、敗者の人生に確定したといっても同然である。したがって、少年たちは精神的に追い詰められ、一方では自己破壊、他方では非行、重大事件を引き起こしてしまうのである。
Ⅲへ続きます。