こちらは前回の続きです。合わせてお読みいただけると幸いです。
Ⅲ学校と重大犯罪を犯した少年たちとの関係性:原因②再生産
Ⅱでは、学歴主義に侵された学校が、偏頗(へんぱ)な人間を作出し、そうした人間が重大な事件を起こしてしまうということを述べたが、今度は学校教育が持つ機能と非行との関係性について論じていく。教育について、P.ブルデューは「教育的働きかけ」という概念を用いた。学校教育において、教育的働きかけは、「⋯直接または間接に、全面的または部分的に教育的である機能をになっている一制度が、この効果のために明瞭に委任した代理者システムによってなされたりする(制度化された教育)」(ブルデュー&パスロン, 1991, p.18)。すなわち、学校教育において教育的働きかけがなされているのである。また、「文化的恣意を押しつけるAP(=教育的働きかけ)の恣意的な力は、究極的には、それが行使される社会組織を構成している集団間または階級間の力関係にもとづいているのであるが、このAPは、⋯自らの教えこんだ文化的恣意を再生産することで、その恣意的押しつけの力を基礎づけている力関係を再生産するのに寄与している」(ブルデュー&パスロン, 1991, p.25)。このことを学校教育に当てはめると、教師は自らの知識を生徒に教えることで、新たに知識を持つ者を再生産する。知識を持った生徒は、学業においてよい成績をとる。彼らはよい大学へ進学し、よい企業に就職する。そして経済的にも社会的にも高い地位になる。学校教育とは、文化的再生産であって、且つ社会構造の再生産を担う場でもある。
この立場から考察してみると、学校は生徒たちに教科を教えることを通して知識を身につけさせ、社会構造を再生産しているわけだが、ときとして生徒の一部に再生産できない生徒がいたとする。すなわち、成績が悪く、到底大学へは進学できないような生徒である。そのような生徒が周囲とのギャップに悩み、非行に走るのではなかろうか、と考える。
Ⅳ今後、重大犯罪を犯す少年を減らすための提言
少年たちが重大犯罪を犯した動機が学校にあることはⅡで述べたとおりである。学歴主義のなかでうまくやっていけなかった生徒が精神的に追い詰められ、その鬱憤(うっぷん)を外部に犯罪という形で放出する。また、Ⅲで述べたとおり、学校教育の中には、「恣意的な力による文化的恣意arbitraire culturelの押しつけとして、客観的には、ひとつの象徴的暴力violence symboliqueをなす」(ブルデュー&パスロン, 1991, p.18)、教育的働きかけがある。したがってそのような構造がある以上、非行に走ってしまう生徒を完全に出さないようにすることは難しいと言える。しかし減らすことは可能であると考える。重大犯罪を犯す少年というのは学校において少数である。したがって、少数派をサポートする仕組みを整備すればよいのである。具体的には、少人数制の授業を増やしたり、相談室や自習室を設けたりすることである。少人数の授業にすることで、生徒は教師に対し質問しやすくなる。実際、私の中学・高校では英語や数学については少人数による授業が行われていた。また、相談室を設けることで生徒が一人で悩みを抱えるという事態が減る。自習室設置は最も効果的に思われる。それは、事情があって自宅で学習できない生徒や、塾に通えない生徒は自習室があることによって学校で勉強することができ、そうすることで成績が向上するからである。
Ⅴ教育について当該調査を踏まえた考え
個人的に、教育はその人の人格を形成するものであると考えている。なぜなら、「学校は、血縁関係を中心とした家庭から抜け出し社会に出ていく橋渡し的な役割を果たす場であり、家庭とは異なる人間関係の中で、子どもたちは様々な刺激や影響を受け、社会の一員としての自覚とともに他者との関わり方などを学んでいく」(日本弁護士連合会, 2001, p.16)にもあるように、人格の骨子は小学校、中学校、高校という12年間の義務教育に加えて3年間の中等教育を経て次第に形成されていくからである。また、人格はその他、家族関係や習い事、外部活動等によって肉付けされていく。
しかし、教育がどんなときでも万人に対して好影響を与えるわけではないということを、今回重大事件を起こした少年たちを分析することによって気づかされた。それは教育が、学校という一つの小さな社会で行われるときに、我が国においては学歴主義によって侵蝕され、一部の生徒たちに対して歪んだ効果を与えてしまうという側面を持っているからである。このようなことを考慮するに、個人的には教育を客観的にとらえる教育学は、そうした事態を改善するためにあると考えるし、改善すべきでもあると考えている。
最後に、今回は学校教育のみを非行の原因として扱ったが、家庭での教育、さらには社会での教育が少年のみならず一般の犯罪者の犯罪動機たり得るかについても今後調べていきたいと思う。
【参考文献】
・前田雅英『刑法総論講義 第6版』東京大学出版会, 2015.
・日本弁護士連合会『少年犯罪の背景・要因と教育改革を考える―とどいてますか、子どもの声が―』日本弁護士連合会, 2001.
・ピエール・ブルデュー&ジャン=クロード・パスロン『教育・社会・文化 再生産』藤原書店, 1991.