皆さんこんにちは!
今回は、選挙制度の前提、多数決とその問題点について説明していきます。
私たちが生きている日本という国家は、自由主義と民主主義を基礎としています。そしてこのような国家における政治体制、つまり自由民主主義体制の要件の1つは、国民の意思が国家のとる方針・政策に、選挙で選ばれた代表を介して反映されることです。
ただ、この「選挙で選ばれた代表」を選び出す方法にはさまざまなものがあります。(そのことを次回紹介します)
先に結論を述べておきますと、
いつでも何にでも適用可能な万能な決定ルールというものは存在しません。
このことをしっかり念頭に置いておいてください。
今ある選挙制度や、それによって選ばれた代表たちが意思決定を行う議会制度というものは、「個々人の意見を集めて国民の意思と国家の意思とを一致させるにはどのような方法があるのか」という難問への一応の答えでしかありません。
それでは、どうして万能な決定ルールがないのか、なぜ単純な多数決では難しいのか、について説明していきます。
単純多数決の問題:コンドルセのパラドクス
ある社会(学校のクラスでもいいです)にAさんとBさんとCさんの3人のメンバーがいたとしましょう。
この社会では、今まさに選挙が行われようとしていて、伊藤、田中、岸の3人が知事に立候補しました。
選挙人A、B、Cの選好順位は下図の通りです。
選好とは、個々人がもつ、ある対象に対する好みのことをいい、それは少なくとも順序の関係で表現することができます。
さて、表のように選挙人の選好がこうもカッチリ決まっていると、一度に多数決で決めようにもきっと決まらないことでしょう。なので、選挙人らは話し合って、候補者2人組のペアをそれぞれ多数決しよう!ということになりました。
このようなとき、結果はどうなるでしょうか?
3人の候補者(伊藤、田中、岸)のうち2人を選び出してペアで対決させると、
①伊藤と田中を競わせる→伊藤を選ぶのがAとB、田中を選ぶのがC、よって伊藤の勝ち
②勝った伊藤と岸を競わせる→岸を選ぶのがBとC、伊藤を選ぶのがA、よって岸の勝ち
③勝った岸と田中を競わせる→田中を選ぶのがAとC、岸を選ぶのがB、よって田中の勝ち
④勝った田中と伊藤を競わせる→①と結果は同じ….
というように、すべてのペアの多数決で勝つ候補者はおらず、多数決の勝者は、伊藤→岸→田中→伊藤….と循環する結果となります。
(なんとも困ったことです…)
このように、決定に参加する各個人が一貫した選好順序をもっているにもかかわらず、ペアごとの多数決でそれを集計し、全体の順序を決めようとすると循環が生じてしまい、一貫しない結果となることを、コンドルセのパラドクスといいます。
→これは投票のパラドクスとも呼ばれますが、これが示すのはつまり、
各個人の合理性は集団全体の合理性を保障しない
→各個人の選択から社会的な意思決定を導き出すのが困難である、
ということです。
選択肢が2つに制限されない限り、ペア比較の勝者が循環するという可能性が常につきまとうことになります。
多数決の結果の安定性:決選投票つき多数決
3つ以上の選択肢がある場合において、そこから2つを取り出して単純に多数決で決定しようとすると循環して決まらないことがわかりました。
それでは、人為的に選択肢を2つに制限してしまう方法だとどうなるでしょうか?
(1)1回目の投票で上位2人を決選投票に進めて、
(2)決選投票で過半数を得た者を勝者(知事)にする
という方法です。このような多数決の仕方を、「決選投票つき多数決」といいます。
12人で構成されている社会があるとして、
・1回目の投票では5票と4票をそれぞれ獲得した伊藤と岸が決選投票に進むことになりました。敗れた田中を選んだ3人の選好順序は、岸>伊藤となっているので、
・決選投票では、伊藤が5票、岸が7票獲得することになり、
→岸の勝利となります。
ただし、この結果が安定するためには、
田中が再選挙を要求して岸に挑戦することがない、というルールが保障されている必要があります。
→このように、決選投票つき多数決から分かることは、3つ以上の選択肢がある場合は、個人の選好を集団の意思に集計する(=代表を選ぶ)手続の前に、何らかのかたちで選択肢を2つに制限しておかなければ、多数決の結果は安定しない可能性が高いということです。
まとめ
現実世界においては個人の選好は実に多様であり、その多様性を反映しようとすれば、つまり個人に選択の自由を提供しようとすれば、それを集計するときに循環が生じてしまい、決定が困難になる可能性が高まります。これがコンドルセのパラドクスの問題です。
他方で、パラドクスの可能性を低くさせようと選択肢を2つに制限すれば、多数決の結果の安定性を確保することができますが、個人個人の選択の自由は極端に制限されることになってしまいます。
→決定ルールが選択の自由と決定の安定性を両立させるのは、非常に難しいことなのです。
以上説明してきたように、完全無欠の決定ルールというものは存在しないのです。
そうは言っても、決定ルールを定めなければ代表を選び出すことができず、民主主義体制がうまく機能しなくなってしまうので、実際はいくつか選挙制度があみ出されて、各国はそれを運用しています。次回は選挙制度の種類について紹介していきたいと思います!
それでは良い一日を! Schönen Tag noch!