皆さん、こんにちは! 本日もやってまいりました、政治のお時間です。
早速ですが、前回の内容を覚えていますか?
…そうです、秩序のできる過程について学びましたね。(一応皆さんがちゃんと覚えていた前提で話をすすめていきます)
秩序とは、社会・集団を望ましい状態に保つための順序や決まり(ルール)のことをいいます。
秩序、それも自発的秩序は、一人一人が自分の利益しか考えていないにもかかわらず、それを最大化するために選択した行動によって社会(集団)全体が安定した状態になる、というものです。
(♣市場経済において、各個人が自己の利益(利得,効用)を追求すれば、結果として社会全体において適切な資源配分が達成されるとする、アダム・スミスの「見えざる手」と似ていますね。♣)
そしてこのような秩序は、ルールを逸脱するプレーヤーが現れても、集団内で逸脱したことによる不利益を受ける結果、再び均衡点….(※)に戻るという性質をもっています。
(※)ナッシュ均衡:相手が戦略を変えない限り、どのプレーヤーも戦略を変更して利得を増やすことができない戦略の組み合わせのこと。
しかしながら、現実の社会や集団には法律や規則が存在しますよね。そして私たちはその規則に当たり前に従っています(それもそういった規則はたいてい、私たちが生まれる前からその社会に存在しているので、私たちはその規則をつくる過程に携わっていないわけです…)。
それでは、なぜ、一人ひとりはルールに従うのでしょうか?
さらに言えば、一人ひとりはいったいどういう動機・理由で秩序に従うのでしょう? ここに、政治が関わってくるのです。
政治の役割
先に結論を言います。
政治の役割の1つは、正統性や強制力といった資源をもつ国家の力を用いて、人々の期待に働きかけ、秩序を形成すること、です。
人々がルールに従う理由は、そのルールを定めた政府には「正統性」があるからだ、と人々が思うからなのです。
(→政治が必要になるときって一体どんなとき?へGo!)
♣プラスα知識♣
なんで「正当」じゃなくて「正統」という漢字なのか?大した違いなんてないんじゃないの?と感じることでしょう。しかし、わざわざこの漢字を使っていることには深い理由があるのです。
どちらも、大まかに言えば「正しい」という意味なのですが、英語にすると単語が異なるのです。「正当性」=“justness”、「正統性」=“legitimacy”。
「正当性」とは、道理にかなっていて正しいことです。たとえば、その主張は正しい、というときはこちらです。
一方で「正統性」とは、正しい系統(・血筋)のことです。たとえば、(中世の)王様がなぜ王でいられるのかについて、代々その血筋だから後継者として正統なのだ、という使い方をします。正統性のほうが、より根源的なのです。
民主政においては、多数派が少数派を支配しますが、なぜ少数派は多数派が決定したルールに従うのか?という問いに関わってくるのが、「正統性」なのです。
(このことは今後、国家をめぐる概念を説明するときに詳細に述べていきたいと思います。なお、この概念は憲法と政治学のどちらにおいても登場します。)
以下でもう少し詳しく説明していきますね。
政治が必要になるときって一体どんなとき?
さて、話をいったん自発的秩序に戻しましょう。
エスカレーターの乗り方のルールなどは、自発的秩序の典型例ですが、反対側に立つなどルールを破る人が現れたとしても、その人の後に渋滞ができるくらいで(しかもその渋滞は短期的なものなので)、ルールからの逸脱行動が他のプレーヤーに与える不利益は小さいといえます。
では、自動車の走る道路についてはどうでしょうか?この場合にもし、エスカレーターと同じように自発的秩序に任せてしまえば、地域によって右側を走る、あるいは左側を走るというようなローカル・ルールに違いが生じ、混乱状況(まさにカオス)に陥ることでしょう。とくに、そのローカル・ルールでさえ曖昧な地域だと、なおさら危険極まりない状況になります。
→このとき、強制力をもつ国家権力や集団による意思決定という「大きい政治」が求められるのです。
道路の通行ルールについて、本来はナッシュ均衡が2つあります。したがって、左・右のどちらを選択しても安定することになり、たとえば右側通行を選択した個人が「こっちのほうが便利だよー!」と訴えかけたところで、人々は今選んでいる自らの行動を変えなかったでしょう。
ところが、国家には、国家の定めるルールに従うことは正しいことだと人々に思わせる正統性と、そのルールに違反する逸脱者に罰則を科すことのできる強制力があります。
→上記の例だと、国家は2つあるナッシュ均衡のうち、1つには罰則を用いることによって、人々の「右側を走ったら罰せられるから左側を走ろうかな…きっとまわりのみんなもそうするよね…」という期待を誘導し、(たとえば日本だと)「左側通行」という秩序を作り出しているのです。
ただ、いくら罰則を用いるといっても、実のところ、「違反者は罰する」という脅しのほうが重要であり、違反者に罰則が適用されることは稀なんです。
→それは、人々の期待(「まわりのみんなも左を走るよね…」)が一致するかぎり、そこから逸脱した行動をとるというのは、各プレーヤーにとっても不利益となるので、あえてそのような逸脱行動をとる人は少ないからです。
♠豆知識♠
ルール違反者に罰則が適用されることは稀であると言いましたが、例をあげましょう。
自動車を運転する人は、信号のない横断歩道で歩行者が渡ろうとしているのを発見したときは、車を一時停止させて、歩行者を優先させなければなりません(道路交通法38条1項)。
もしこのルールに違反したなら、3か月以下の懲役か、5万円以下の罰金という罰則を科せられてしまいます(同法119条1項2号)。
しかしながら、現実にこのルールをきちんと守っている運転手は少ないですよね…そしてほとんどの場合、違反した現場に警察官が(たまたま)居合わせるということもないですよね。
このように、法律や規則で「罰則あるよ!」と規定したところで、実際ほとんど罰則が科されることはありません。このことから、罰則規定は人々に秩序を維持させるための脅しであるということがわかります。
まとめ
このように、政治の役割とは、
「正統性や強制力といった資源をもつ国家の力を用いて、人々の期待に働きかけ、秩序を形成すること」であり、
それを実現するために、
政治には率先して市民をまとめあげ、国家権力の強制力を使うことで、無数に存在するナッシュ均衡の中から1つの点に人々の期待を集約させるという重要な機能があるのです。
そして、人々がルールに従うのは、それを定めた国家には正統性があるのだと思い、かつ、ルールに違反した場合には国家権力によって罰則を科せられてしまう不利益を回避したいというインセンティブ(動機)がはたらくためです。
今回は、なかなか難しい内容となってしまいましたね。でも、これってわりと誰もが当たり前に(といいますか直観的に)感じていることなのではないでしょうか? ルールに違反したら制裁を受ける…たとえば遅刻したら反省文を書かされるなど、個人にとって嫌なことを強制されるのが嫌だから、みんなルールをなるべく守る、といった具合にです。
このように、読んでいて分かりづらいな~と思ったら、是非身近な例を思い浮かべてみることをおすすめします😊
それでは良い一日を! Have a nice day!
おまけ(道路交通法)
「車両等は、横断歩道又は自転車横断帯(以下この条において「横断歩道等」という。)に接近する場合には、当該横断歩道等を通過する際に当該横断歩道等によりその進路の前方を横断しようとする歩行者又は自転車(以下この条において「歩行者等」という。)がないことが明らかな場合を除き、当該横断歩道等の直前(道路標識等による停止線が設けられているときは、その停止線の直前。以下この項において同じ。)で停止することができるような速度で進行しなければならない。この場合において、横断歩道等によりその進路の前方を横断し、又は横断しようとする歩行者等があるときは、当該横断歩道等の直前で一時停止し、かつ、その通行を妨げないようにしなければならない。」
2項 「車両等は、横断歩道等(当該車両等が通過する際に信号機の表示する信号又は警察官等の手信号等により当該横断歩道等による歩行者等の横断が禁止されているものを除く。次項において同じ。)又はその手前の直前で停止している車両等がある場合において、当該停止している車両等の側方を通過してその前方に出ようとするときは、その前方に出る前に一時停止しなければならない。」
3項 「車両等は、横断歩道等及びその手前の側端から前に三十メートル以内の道路の部分においては、第三十条第三号の規定に該当する場合のほか、その前方を進行している他の車両等(軽車両を除く。)の側方を通過してその前方に出てはならない。」
(罰則 第百十九条第一項第二号、同条第二項)
「車両等は、交差点又はその直近で横断歩道の設けられていない場所において歩行者が道路を横断しているときは、その歩行者の通行を妨げてはならない。」
(罰則 第百十九条第一項第二号の二)
第119条1項
「次の各号のいずれかに該当する者は、三月以下の懲役又は五万円以下の罰金に処する。」
2号 「第三十条(追越しを禁止する場所)、第三十三条(踏切の通過)第一項若しくは第二項、第三十八条(横断歩道等における歩行者等の優先)、第四十二条(徐行すべき場所)又は第四十三条(指定場所における一時停止)の規定の違反となるような行為をした者」
2号の2 「第十七条(通行区分)第一項から第四項まで若しくは第六項、第十八条(左側寄り通行等)第二項、第二十五条の二(横断等の禁止)第一項、第二十八条(追越しの方法)、第二十九条(追越しを禁止する場合)、第三十一条(停車中の路面電車がある場合の停止又は徐行)、第三十六条(交差点における他の車両等との関係等)第二項から第四項まで、第三十七条の二(環状交差点における他の車両等との関係等)、第三十八条の二(横断歩道のない交差点における歩行者の優先)又は第七十五条の五(横断等の禁止)の規定の違反となるような行為をした者」
2項 「過失により前項第一号の二、第二号(第四十三条後段に係る部分を除く。)、第五号、第九号又は第十二号の三の罪を犯した者は、十万円以下の罰金に処する。」