カテゴリー: 一般向け数学・統計学

微分とは何か?(中学生でもわかる解説)

はじめに

まずは、ハイキングが大好きな山田登子さん(仮名)のある日の1日をご覧ください。

(山田登子さんのある1日)
今日は友達とハイキングだ!昨日は楽しみであんまり眠れなかったわ!
10:00  最初は上り坂だ。きれいな景色を見るために頑張るぞ~(^^)/
11:00  坂がきつくなってきた…でもあとちょっとで頂上だ!
12:00 平らなところに到着!ここでお待ちかねのお弁当タイム(^^)!
13:00 お弁当も食べ終わったことだし、ここから下り坂ね。
14:00 また少し上り坂…足が疲れてきた~(;_;)
15:00 すぐに下り坂に戻ってよかったわ!駅が見えてきた
16:00 駅に到着!電車では爆睡だわ(笑)
今日は一日楽しかったわ!でも明日は筋肉痛かも~(トホホ)

さて、この記録の太字部分に着目すると、私たちは彼女が登った山の全体像を見なくても、彼女が登った山の地形を知ることができます。

このように、山の全体像を知らなくても、山を登ってみれば山の形がわかるわけです。では今度は山の形ではなく、例えば\(y=x^3-3x\)のようなグラフの形を知りたいとしましょう。グラフの場合は「山を登ってみる」ことに相当するのが「微分」なのです。

直線の傾き

「20パーミル」の勾配

山を登ってみてわかることは、上り坂か下り坂か、どれだけ急勾配なのか?という情報で、それらをつなぎ合わせるとだいたい地形がわかるわけです。この勾配を表す単位にパーミル(‰)というものがあり(鉄道オタクにはおなじみですね)、例えば「20‰」であれば、横に1000m進むたびに20m高さが変化することを表します。つまり、「1000m進んだら高さがどれがけ変化するか?」が「パーミル」なのです。

同じように、座標平面上では「横方向(\(x\)方向)に+1進んだら縦方向(\(y\)方向)にどれだけ上がるか?」を直線の「傾き」といいます。言い換えると、\(x\)が+1増えるたびに\(y\)が\(+a\)増える直線が「傾き\(a\)」の直線です。もし傾きが\(-2\)のようにマイナスだったら、\(x\)が増えるたびに\(y\)が減ることになるので、右下がりの直線になります。

いろいろな直線の「傾き」

では、\(x\)方向に+3増えたら\(y\)方向に+2増えるような直線の傾きはどうでしょうか?この場合、\(x\)方向に+1増えたときの\(y\)方向の増加量は\(2\times \frac{1}{3}\)なので、傾きは\(\frac{2}{3}\)になります。このように、

 \(\displaystyle 直線の傾き=\frac{yの増加量   }{xの増加量   }\)

で計算できることを覚えておきましょう。

曲線の傾き(微分)

曲がった曲線

では、まっすぐな直線ではなく曲がりくねった曲線の勾配を知るにはどうしたらよいでしょう?曲がった曲線の場合、上り坂もあれば下り坂もあったりと、場所によって勾配が違うので、各場所ごとに勾配を調べる必要があります。

では試しに、\(y=x^2\)というグラフの\(x=1\)における勾配を考えてみましょう。あとのことを考えて、\(f(x)=x^2\)とおいて話を進めます。この記号は、例えば\(f(3)\)なら\(f(3)=3^2\)のように\(x\)の部分に3を代入した値を表す、ということです。
とりあえず\(x\)を変化させて、「\(x\)の増加量」と「\(y\)の増加量」を考えてみましょう。今知りたいのは「\(x=1\)という1点における傾き」なので、\(x\)をほんの少しだけ変化させてみます。例えば\(x\)を1から1.01まで変化させてみましょう。

\(x\)\(1\)\(1.01\)増加量\(0.01\)
\(y\)\(f(1)\)\(f(1.01)\)増加量\(f(1.01)-f(1)\)

すると上の表から、\(x\)を1から1.01まで動かした時の傾きは\(\displaystyle \frac{f(1.01)-f(1)}{0.01}\)と表せることがわかります。しかしこれは「1から1.01まで動かした」時の情報なので、「\(x=1\)における傾き」というには不正確ですね。同じように\(x\)を1から1.001まで動かした場合を考えれば、もっと正確にできそうですが、これでも完全に正確ではありません。
増やす量を0.01と0.001とか具体的な数で考えていてもダメそうなので、文字にして、\(\Delta x\)増やす場合を考えてみましょう。

★ここで\(\Delta\)というのは「デルタ(ギリシャ文字)」で、英語のDに対応します。「変化量」を表す英語「difference」の頭文字Dをギリシャ文字\(\Delta\)にして、\(\Delta x\)で「\(x\)の変化量」を表そう、というわけです。

\(x\)\(1\)\(1+\Delta x\)増加量\(\Delta x\)
\(y\)\(f(1)\)\(f(1+\Delta x)\)増加量\(f(1+\Delta x)-f(1)\)

\(x\)を1から\(1+\Delta x\)まで動かした時の表は上のようになるので、この時の傾きは\(\displaystyle \frac{f(1+\Delta x)-f(1)}{\Delta x}\)と表せます。先ほどのように、この\(\Delta x\)の部分を0.1、0.01、0.001という風にだんだん0に近づけていけば、より正確な値に近づいていくはずです。そこで、「\(x=1\)での\(y=f(x)\)の傾き」を

 \(\displaystyle (*)~~\lim_{\Delta x \to 0}\frac{f(1+\Delta x)-f(1)}{\Delta x}\)

と定めることにしましょう。
これは、「\(\Delta x\)を0に近づけた時の\(\displaystyle \frac{f(1+\Delta x)-f(1)}{\Delta x}\)の値」という意味です。例えば、
$$\lim_{\Delta x \to 3}(\Delta x +2)$$
だったら、「\(\Delta x\)を3に近づけた時の\(\Delta x +2\)の値」なので、\(3+2=5\)となります。
\((*)\)式を\(x=1\)における\(f(x)\)の微分といい、\(f'(1)\)という記号で表します。

\(\displaystyle \frac{f(1+\Delta x)-f(1)}{\Delta x}\)というのは右図の赤い線の傾きで、\(\Delta x\)を0に近づけると、この線は水色の線(=接線)に近づいているので、結局\((*)\)式は「接線の傾き」を計算していることになります。

\(x=1\)だった部分を\(x=a\)として、今の話をまとめておきましょう。

微分の定義
\begin{align*}
f'(a)&=\lim_{\Delta x \to 0}\frac{f(a+\Delta x)-f(a)}{\Delta x}\\
&=「x=aにおけるy=f(x)のグラフの接線の傾き」
\end{align*}

微分の計算

では実際に微分の計算をしてみましょう。例として、まず\(f(x)=x^2\)を考えてみます。上の定義に当てはめて計算してみると(以下では\(a\)の部分を\(x\)に変えた式を書きます)、
\begin{align*}
f'(x)&=\lim_{\Delta x \to 0}\frac{f(x+\Delta x)-f(x)}{\Delta x}\\
&=\lim_{\Delta x \to 0}\frac{(x+\Delta x)^2-x^2}{\Delta x}\\
&=\lim_{\Delta x \to 0}\frac{x^2+2x\Delta x+(\Delta x)^2-x^2}{\Delta x}\\
&=\lim_{\Delta x \to 0}\frac{2x\Delta x+(\Delta x)^2}{\Delta x}\\
&=\lim_{\Delta x \to 0}\{2x+\Delta x\}=2x
\end{align*}
と計算できます。\(\Delta x\)という記号がイカツイですが、やったことは2乗を展開して約分して\(\Delta x\)のところに0を入れただけです。
以上より、\(f(x)=x^2\)のとき\(f'(x)=2x\)という式が得られました。これにより、さっき知りたかった\(y=x^2\)の\(x=1\)における傾きは、\(f'(1)=2\)であることがわかります。

同じように計算をしてみると、

微分の公式
 \(f(x)=x^n\)の時、\(f'(x)=nx^{n-1}\) (右肩の数を前に出して1引く)

という公式が導かれます(ここでは計算の詳細は省略しますが、同じように展開して約分して0を入れるだけです)。これを使うと、\(x^3\)の微分は\(3x^2\)、\(x^1\)の微分は\(1x^0=1\)という具合に計算できます(\(x^0=1\)に注意しましょう)。

グラフを描いてみる

では微分の計算を利用してグラフを描いてみましょう。試しに、\(y=x^3-3x\)のグラフを描いてみます。\(f(x)=x^3-3x\)とおくと、さっきの公式から、
$$ f'(x)=3x^2-3=3(x^2-1)=3(x+1)(x-1)$$
と計算できます。このことから、次のような表が作れます。

\(x\)\(-1\)\(1\)
\(f'(x\))\(+\)\(0\)\(-\)\(0\)\(+\)
\(f(x)\)\(\nearrow\)\(2\)\(\searrow\)\(-2\)\(\nearrow\)

この表の見方は、例えば一番右側の欄であれば、

 \(x\)が1より大きいとき、\(x+1\)も\(x-1\)もプラスなので、\(f'(x)\)はプラス
 →傾きがプラス→右上がり

という具合です。これを増減表といいます。これはまさに最初に出てきた「山田登子さんの1日(上り坂と下り坂の情報)」と全く同じですね!これを使うと、最初に山の形がわかったのと同じようにして、グラフの形がわかります。

まとめ

「山を登って山の形を知る」という最初の発想がまさに微分であったことがご理解いただけたでしょうか?微分はグラフを描くこと以外にも、いろいろなことに応用されます。例えば、前回の記事で述べた最小2乗法の計算も、微分を使えば、より簡単な計算で答えを出すことができます。これを機に、微分や積分の計算に興味をもっていただけたらと思います。

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作成者:

数学科の学生で、確率論、統計学を専攻しています。

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