カテゴリー: 政治学

秩序ってなんだろう(ゲーム理論入門)

皆さん、こんにちは! 政治のお時間がやってまいりました。
前回は「政治の意義」について学びましたね。政治とはなにか、覚えていますか?

→社会に対する価値の権威的配分(David Easton)でしたね。

さて、今回は秩序ができる過程を説明していきます。

なんで「秩序?」と思うことでしょう。私たちが今こうして普段快適に生活することができているのは、社会を構成するみんなが、きまりごとを守っているからなんです。税金を納める、出勤・通学時間を守る、あとは自動車を運転する人でしたら、道路の左側を走るなどなど…。例をあげればキリがないですね(笑)
社会のなかで生活するうえで、というか人は生きていると必ず何かしらの集団に所属することになるのですが、その際に、誰しもが安心して快適にやっていきたい、と願いますし、その状態が実現している社会や集団には、秩序が成立しているといえます。
なので、今回は、そもそも秩序とはなんなのか、どうやって成立するのか?ということについて説明していきます。

秩序とは

秩序とは、「社会・集団を望ましい状態を保つための順序きまり(ルール)」のことです。
ある社会において、その社会にあるルールに、社会のメンバーである一人一人がしっかり従っているとき、その社会には秩序が成立しているといえます。

では、秩序はいったいどうやってできるのでしょうか。今回はこれについてみていきましょう!
→政治学とゲーム理論へGo!

♣プラスα知識♣
なぜ、一人ひとりはルールに従うのでしょうか?
さらに言えば、一人ひとりはいったいどういう動機・理由で秩序に従うのでしょう?
この問いについては、次回掘り下げていきます。今回は、その前提となる秩序について説明します!
この問いは「個人の動機」に着目したものですが、ほかにも「そういう文化・ 社会だから人々は従うのではないか?」という問いもでてくることでしょう。しかしながら、今後は、政治や社会現象を個人の行為の積み上げとして理解する見方(これを、「方法論的個人主義」といいます)を採っていきます。
そして、政治学が対象とする人間(個人)につき、
個人は自分が望む利益を最大化するために決定し行動するという、合理的個人を前提に置きます。

政治学とゲーム理論

政治学では、このような問いを、ゲーム理論のモデルを使って考えていきます。
*ゲーム理論については別の記事で説明するので、今はとりあえず普通にゲームだと思って気軽に受け流してください
まず、この理論のモデルにおける用語を紹介しますね(ゲームに親しんでいる人からすれば、説明するまでもないですが….)。
プレーヤー:意思決定し行動する最小単位(1人)のこと
戦略:プレーヤーがゲームをプレーするために立案する行動計画
利得:得られる利益
利得表:プレーヤーの行動と利得の関係を示す表

道路の通行ルール…なぜみんな守るの?

秩序とは、社会・集団を望ましい状態を保つための順序やきまりのことをいいます(上記の繰り返し)。しかしながら、きまり(ルール)が無くても秩序は成立します。←♣こういう秩序を「自発的な秩序」といいます。♣

たとえば、エスカレーターに乗るときを思い浮かべてみてください。関東だと右側を空け、関西だと左側を空けますよね…でも法律にそういうルールなんて定められていませんよね。

では、このような自発的な秩序はどうやってできるのでしょうか。
道路のたとえが分かりやすいので、今回は道路の例を用いて、秩序が成立する過程を見ていきましょう。(※ここでいう道路ですが、歩行者が歩く道ではなくて、自動車が走る道をイメージしてください。)

利得表:通行ルールの選択

AとBという2人のプレーヤーがいるとします。そして両者は、道路の右側を走るのか、それとも左側を走るのかの選択に迫られているとしましょう。

表は、AとBがそれぞれ2つの行動(右か左を走る)をもつことを示しています。
→Aは横の行に示した2つの戦略から選び、Bは縦の列に示した2つの戦略から選びます。
両者の組み合わせは全部で4つあり、数値は、その戦略を選んだときに、各プレーヤーが得られる利得をあらわしています。

♣プラスα知識♣
利得とは、プレーヤーが得られる利益のことですが、経済学における「効用」の一種です。効用とは、消費者が財やサービスを消費することによって得る主観的な満足の度合いのことを言うので、今回のゲームにおいては満足感にしましょう。相手と同じ側を選んだら安心感ということで3、異なる側を選んだら、不安感ということで0。

さて、各プレーヤーはどのような戦略をとれば、自分の利得を最大化できるでしょうか?

Aの戦略はどうなる?

まず、Aの戦略から考えてみましょう。
戦略とは、ゲームの状況ごとに利用可能な情報にもとづいて、どのように行動するか指定する行動計画のことを言うので、Bの行動があってはじめて、Aが自分がどっちの側を走るか決定することになります。
①Bが右側通行を選ぶとき
:Aとしては、右か左の2通り選択することができます。
→Aが右側通行を選ぶ(=Bと同じ行動を選ぶ)と、利得は《3,3》なので、Aは3の利得を得られます。
→Aが左側通行を選ぶと、利得は《0,0》なので、Aは0の利得を得ます。

②Bが左側通行を選ぶとき
:Aとしては、右か左の2通り選択することができます。
→Aが右側通行を選ぶと、利得は《0,0》なので、Aは0の利得を得ます。
→Aが左側通行を選ぶ(=Bと同じ行動を選ぶ)と、利得は《3,3》なので、Aは3の利得を得られます。

もうここまで見てきて、勘の良い皆さんでしたらお分かりだと思いますが、
これと同じことが、Bにも当てはまります。


結論:どちらのプレーヤーも、相手と同じ側を選ぶのが得策

このモデルから分かることは、AとBどちらのプレーヤーも、相手と行動を調整すれば(=相手と協調すれば)高い利得を得られる、ということです。

道路の通行ルールのような状況では、左右どちらを空けるかは重要ではなく、相手といかに行動を合わせるかが重要なので、このようなゲーム状況を「調整ゲーム」(協調ゲームともいいます)と呼びます。

そして、この表において、左上《3,3》、右下《3,3》という組み合わせに注目してみましょう。AとBはお互いに、相手の行動に対して最も適切な行動….(※)をとっているといえますね。(表の数値をみれば一目瞭然です。相手と違う側を通行する戦略をとったときにプレーヤーが得られる利得は0ですからね。)つまり、お互いが自分の利益しか考えないとき、相手に対し最適な応答となっているわけです。

また、このような組み合わせにおいては、もしAが右側通行のときにBが右側通行から左側通行へ戦略を変えると、利得は3→0に減ってしまいます。Bが左側通行のときに、Aが左から右へ戦略を変えると、やはり利得は3→0に減ってしまいます
このように、相手が戦略を変えない限り、どのプレーヤーも戦略を変更して利得を増やすことができない戦略の組み合わせを、「ナッシュ均衡」といいます。
嚙み砕いて言うと、自他ともにそこそこ満足しているちょうどいい状況のなかにいるとして、「自分の利益をもっと増やしたい!」と思い、自分だけが戦略を変えても、相手が変えない限りは利得を増やせないよ(だから現状維持のまま)ということです。
→《A-右、B-右》、《A-左、B-左》という戦略の組み合わせがナッシュ均衡ということになります。

(※)自分以外のすべてのプレイヤーの戦略が与えられたとき, これに対して自分の利得が最大になるような戦略最適反応といいます

まとめ

以上より、(自発的な)秩序は、相手の行動(戦略)に対し最適な行動をとった結果、言い換えれば、相手の行動に協調し、かつその協調行動によって自分の利益が最大化するような状況のときに、成立するということがわかりました。
秩序と聞いて、今後覚えておいていただきたいのは、
・ゲーム理論という考え方がある
・調整ゲーム(協調ゲーム)という考え方があるらしい
・ナッシュ均衡=安定した状態=秩序
の3つです!

このような自発的秩序は、たとえばエスカレーターにおいて、通行ルール(慣行)に反する人が現れても、他の人にぶつかったり、後行者に「早く上がってくれ!邪魔だ!」などと言われたりする結果、ルールを逸脱するプレーヤーが続出するということがありません。このことから、自発的秩序は(ナッシュ)均衡点に再び戻るという性質をもっています。

したがって、このような自発的秩序ができている状況には、政治が登場する必要はありません。
しかし、上記で説明をあえてしませんでしたが、道路の通行ルールは日本だと左側、アメリカやヨーロッパだと右側となっています。これは、交通規則でそう定められているからです。ではどうして、自発的秩序に任せていてはだめだったのでしょうか?
…この疑問に、政治が関わってくるのです。次回はこのことについて説明していく予定です!

良い一日を! Schönen Tag noch!

0

作成者:

モモンガ日記編集者。 担当は、法律、政治、経済、その他

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です